【レポート】 8K映像配信におけるクラウドの活用 #AWSメディア業界シンポジウム #AWSSummit
はじめに
清水です。2017/05/30(火)に行われましたAWS Summit Tokyo 2017 Day1 Dive Deep Day AWSメディア業界シンポジウム「8K映像配信におけるクラウドの活用」のセッションレポートになります。
スピーカーは菅原 賢司 氏(株式会社NHKメディアテクノロジー 放送技術本部 ビジネス開発部)です。
4Kの先にある8Kでの映像配信にクラウドを活用するということで、実際のパブリックビューイングにおける実証実験でのAWS活用例を紹介しながらのセッションでした。また大きな企業でのAWS導入におけるコンプライアンス面の検討項目についても紹介がありました。
レポート
クラウドを利用するにあたりメディア業界の悩み
- NHKはコンプライアンスが厳しいので、クラウド利用は2,3年まえまで門前払い状態だった
- クラウドにコンテンツ置いてて大丈夫なの?
- 大きな企業やエンタープライズ系だと共通した問題点?
- 多くの方が心配されている部分と対策例
- 企業において国外のサーバーに置くことをポリシーとして禁止している
- S3,EC2などほとんどのサービスは「リージョン」という考えがある
- リージョンは物理的なデータセンター群で、リージョン間は完全に独立
- 日本国内には東京リージョン
- 適切に設計すれば国外にデータが出ることはない
- 不正ログイン対策
- 多要素認証(MFA)の導入など、不正ログイン対策を検討
- iPhoneにワンタイムパスワードを設定
- 外部の人間にファイルを抜き取ったりされないか?
- 抜き取られても大丈夫な施策を検討
- 企業において国外のサーバーに置くことをポリシーとして禁止している
映像配信高度化機構での佐賀実証実験
- 8KパブリックビューイングでAWSを使用した
- 佐賀野熱気球レースを中継
- 佐賀バルーンミュージアム(佐賀市)
- NHKによる8Kパブリックビューイングと共催
- 平成29年2月3日、4日
- 公衆回線を用いたコンテンツダウンロード型配信
- 専用線は使用していない
- 佐賀バルーンミュージアム(佐賀市)
8Kとは
- 水平画素数が約8,000ピクセル(正確には7,680ピクセル)
- フルハイビジョンの16倍の画素数
- フルハイビジョン(HD) 1,920 x 1,080
- 4K 3,840 x 2,160
- 8K 7,680 x 4,320
- 8Kのデータ量
- 非圧縮データ
- RGB(4:4:4)各色16bitとして1pixelあたり48bit(6Byte)
- 7,680 x 4,320 x 6 でおよそ 1フレームあたり 200MB
- 59.94fpsなら 12GB/s(96Gbps)
- とてもネットワークで伝送できるものではない
- ストレージの観点から
- 30分の映像で22TB
- 30分の映像 x 100本 = 2.2PB
- 非圧縮データ
H.265/HEVC圧縮
- 8Kの伝送、放送にはH.265/HEVC方式の圧縮を行うのが現在の主流
- 現在、最も高効率な次世代圧縮方式(コーデック)
- 処理が重く、PCで再生することはまだ難しい
- spin digital社のソリューション(圧縮フォーマット)でPC再生が可能
- Spin Digital Video Technologies社
- ドイツに本社。国内代理店はテクノロジー・ジョイント株式会社
- Media Player/Decoder
- 8K/60p 300Mbps以上のH.265/HEVC動画を再生可能
- 22.2ch音響に対応
- Encoder
- GPUを使用しないH.265/HEVCソフトウェアエンコーダ
- 4:2:0/4:2:2/4:4:4 8/10/12bitでHEVCエンコード可能
- NHKおよびNHKメディアテクノロジー内で画質面でも高い評価
- NHKの中でもスタンダードになりつつある
- 再生PCスペックも下がりつつある
- Spin Digital Video Technologies社
8Kパブリックビューイング
伝送、上映コンテンツ
- NHKの8Kコンテンツを使用
- 総尺 約110分
- ファイルサイズ トータル約160GB (H.265/HEVC圧縮)
配信仕様
- ファイルダウンロード型配信(暗号化あり)
- 映像
- 映像サイズ: 8K (7,680 x 4,320 pixel), 4:2:2 10bit 59.94fps
- コーデック: H.265/HEVC
- ビットレート: 200Mbps(平均)
- 音声
- チャンネル数: 22.2ch
- コーデック: AAC-LC
- ビットレート: 128kbps/ch
- ファイルコンテナ
- MP4(MPEG4 part14)
- 暗号化方式
- AES256bitクライアントサイド暗号化
配信フロー
- 渋谷のNHKメディアテクノロジーから東京リージョンのAmazon S3にファイルをアップロード
- 佐賀市佐賀バルーンミュージアムにて東京リージョンのAmazon S3からファイルをダウンロード
- 各拠点双方で固定ブローバルIPアドレスを持ち、S3のバケットポリシーを使用して接続元のIPアドレスを制限
- アップロード前にクライアントサイドで暗号化を行い、ダウンロード後に復号
- 万が一ファイルを抜き取られても鍵がないので復号は難しい
上映システム
- 再生PCの映像・音声出力を佐賀バルーンミュージアム既存設備に接続
- ダウンロードした8Kコンテンツをプロジェクタ/22.2ch音響で再生
- 既存設備との結合のために多くの変換機器、同期機器が必要
- PCベース再生機
- CPU Xeon E5-2680 v4 2.4GHz
- メモリ DDR4 64GB
- ストレージ SSD 512GB x8 (RAID 0)
- グラフィック
- NVIDIA Quadro M6000 24GB(8K映像出力用)
- NVIDIA Quadro M2000 (HDMI音声出力用)
- Window 10 Pro 64bit
- Spin Digital Media Player
- 佐賀バルーンミュージアム設備
- 8Kプロジェクター JVC DLA-VS4800
- 8Kレコーダー 計測技研 UDR-40S
ファイル転送結果
- Amazon S3のマルチパートアップロード・ダウンロード、マルチスレッド処理が効いている
- アップロード、ダウンロードのスループットの差はルータの世代差による要因が大きいと推測
- パブリックビューイング目的には十分な伝送速度
渋谷からAmazon S3へのアップロード
- ルータ: YAMAHA RTX1210(現行機種)
- 回線: so-net NURO Biz (1Gbps)
- アップロード時間 35分17秒
- 伝送ビットレート 約900Mbps程度
Amazon S3から佐賀バルーンミュージアムへのダウンロード
- ルータ: YAMAHA RTX1200(1つ前の世代)
- 回線: NTT西日本 フレッツ光ネクスト隼 (ISP:OCN/1Gbps)
- ダウンロード時間 44分33秒
- 伝送ビットレート 500-600Mbps程度
コストについて
- トータル160GBのファイルをS3に保管
- 佐賀にて全コンテンツを2回ダウンロード
- 以上でAWS利用費は約3,000円ほど。低コストで実現できた
まとめ
- HEVCコーデックの進化により、PCでの8K再生が可能に
- 実験レベルから大規模インフラまで、クラウドなら自在に調達可能
- 暗号化、ファイヤウォールなどの併用で高いセキュリティレベルを確保
- データを抜き取られないようにすることも大事だが抜き取られても安心できる対策を検討すべき
Amazon S3における暗号化の区分
- サーバサイド暗号化
- 鍵管理はAmazon S3/AWS KMS/ユーザ、いずれでも可能
- クライアントサイド暗号化
- 鍵管理はAWS KMS/ユーザのいずれでも可能
- 今回はクライアントサイド暗号化を行い、鍵管理はユーザで行った
CloudFrontの検討
- CloudFront: AWSにおけるCDN(Content Delivery Network)サービス
- 複数拠点配信の際には利用を検討
- オリジンとなるAmazon S3への負荷集中を避ける
- CloudFront使用の場合は接続制限の方法が異なる
- 地域制限(Geo Restriction)
- 接続元IPアドレスによる地域制限(例: 日本国内に限定配信)
- AWS WAF(Web Application Firewall)の併用
- 特定IPアドレスのみの接続許可が可能
- 地域制限(Geo Restriction)
感想
8Kでの映像配信という非常に興味深い内容を聞くことができました。H.265/HEVCで圧縮することでPCベースの再生機で再生が可能ということで、今後より様々な場所で8K映像を目にする機会が増えるのではないでしょうか。今回の事例ではファイルダウンロード配信ということでしたが、平均ビットレート200Mbps超の8K映像をライブストリーミングで見ることも近い日に実現できるのではないでしょうか。期待していきたいと思います。